Das Spiel vom Ende der Zeiten (1)

新帝国暦3年5月12日

ハイネセンを火の海にしたアドリアン・ルビンスキーのテロ事件翌日、ドミニク・サンピエールは軍務尚書直属の憲兵隊に拘禁された。ドミニクは憲兵隊の尋問に素直に応じ、ルビンスキーの計略及びフェザーンと地球教、そしてヨブ・トリューニヒトとの関連について詳細な供述を行った。一連の事件の全容があらかた解明されたのは、彼女の証言に依るところが大きかった。

ドミニクがルビンスキーの長年の情婦であることは、誰もが知るところだ。だが、彼女がルビンスキーという男を語る口調は極めて淡々としたものであった。憲兵の一人は「愛はないが情はある」という、やや陳腐な台詞でその心情を形容した。

ドミニクの逮捕拘禁から約半月後、午後から小雨が降り注いだこの日、取調室に突然、オーベルシュタインが姿を見せた。何も知らされていなかった憲兵は、顔をこわばらせながら尋問を続けた。背後からあの軍務尚書に見つめられ、平静を保ち続けられる者は少ない。

憲兵もドミニクも、すでに聞くべきことは聞き、話すべきことは話している。今さら新しい情報が出てくるわけでもない。尋問は事実関係の細かな確認に終始した。

オーベルシュタインは1時間ほどの間、黙ってその様子を見ていた。そして担当の憲兵が予定していた尋問を終え、おそるおそる振り向いたところで、初めて口を開いた。

「エルフリーデ・フォン・コールラウシュの行方を知っているか」

オーベルシュタインの唐突な問いに、ドミニクはこの半月で初めて、驚いた表情を見せた。憲兵たちにも驚きの表情があった。

ドミニクは確かにエルフリーデを庇護している。彼女は完璧に情報を封鎖しているつもりであった。だが軍務尚書が確信を持って尋ねたのは間違いないようだ。いったいどこから情報が漏れたのか。いや、エルフリーデの行方を知ってどうするつもりなのか。リヒテンラーデ侯の一族として、それともロイエンタールの愛人として、罪を問うつもりだろうか。

――守らなくては。渡すわけには行かない。

エルフリーデとその子の運命が、彼女の関与により大きく変わったのは確かだ。何より我が子を失わせることになったことに対し、自責と同情の思いもあった。

何と答えるべきか。どのように答えれば、この怜悧な男を納得させることができるのか。ドミニクの頭脳は急速に回転をしていた。

 

「聞いていたより、優しそうな人だったわ」

軍務尚書の印象をエルフリーデ・フォン・コールラウシュはそのように語った。

エルフリーデがフェザーンの司法省執務室へ出頭を命じられたのは、昨年の春先のことであったという。尋問が始まって数日後、影のように部屋に入ってきたのがオーベルシュタインであった。冷酷な策略をめぐらす非道な男。エルフリーデの耳にもそんな噂が入っていた。

オーベルシュタインは、尋問室に入るなり椅子を交換するよう要求した。あわてふためいて尚書の椅子を替えようとする人々を冷視して、彼は黙って彼女の座る丸椅子を指差した。大きな腹をかかえ、背もたれもない椅子に座らされた彼女を気遣ったらしかった。

懐かしい、と、エルフリーデは思った。軍務尚書その人がではない。彼の発する帝国公用語が、だ。それは完璧な貴族階級の発音であった。間違いなく、彼女と同じ階級に属する人間である。この男もゴールデンバウム王朝の裏切り者には違いないが、それでも他の下賤な者どもよりは遥かに信頼できるような気がした。

貴族階級の多くが没落していくなか、今この国では「反貴族」的であることこそが正義であるとの風潮が生まれている。エルフリーデは流刑地でそれを嫌というほど味わった。貴族としての矜持を胸に生きてきた彼女には、とうてい受け入れがたいことであった。そしてその屈辱を胸に、流刑地を脱してきたのである。

簒奪者を支える三元帥。まさか自分がそのうちの一人の子を孕もうとは思いもしなかった。もし、命を狙った相手が目の前に座るこのオーベルシュタインであったなら、自分の運命はどうなっていたのだろう。厳しく処断されたかもしれないが、少なくとも彼女に屈辱を与えようとは試みなかったのではないか、と、エルフリーデは思った。

エルフリーデは一族が惨禍に遭ったいきさつをよく知るわけではない。もし知っていれば、オーベルシュタインに対し、また違った感想を抱いたかもしれない。

一方、オーベルシュタインは、かつて帝国宰相を務めたリヒテンラーデ侯爵を高く評価していたところがある。今にも崩れ落ちそうな国を支え、愚鈍で無能な皇帝をよく補佐した。各者の利害をよく調整し、政局を見る目も確かであった。だからこそオーベルシュタインは、不意打ちまがいのことをしてでも、彼を除いておきたかった。正面からは対峙したくない相手であったのだ。

 

ドミニクはオーベルシュタインの瞳を静かに見返したが、そこから何も感じとることはできなかった。逆にその冷たい義眼が彼女の心を抉り出そうとするかに見えた。背中を汗がつたうのを感じながら、彼女は小さく息を吸い、

「知らないわ」

とだけ、答えた。

軍務尚書はそれ以上、何も聞くことはなかった。エルフリーデ・フォン・コールラウシュに関する問いが、いったい何のための問いであったのか、ドミニクにも、その場に居合わせた憲兵らにも、うかがい知ることはできなかった。

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