Das Spiel vom Ende der Zeiten (3)

薄暗い部屋の中で義眼が人工的に反射した。雷雨が続いている。

オーベルシュタインは、窓の外に注意を向けながら、彼の養う犬のことを思い出した。あの犬は雷を怖がったことがない。もともと胆力があるのか、流浪の生活が彼の精神を鍛えたものか定かではないが、どんなに雷が荒れ狂ってもどこ吹く風と、泰然としている。たんにもう耳が遠いだけなのかもしれないが。

閃光、数瞬遅れての轟音。音は先程よりもわずかに遅れて轟いたようだ。嵐の中、光と音との間隔を数え、その距離を計ってしまうのは、オーベルシュタインの習性ならいしょうのようなものである。雷は遠ざかりつつある。

――じきに、止むな。

オーベルシュタインが再び手元の書類に視線を落とした瞬間、雷とは異なる閃光と轟音とが、彼の至近距離で同時に爆発した。ガラスの落ちた窓から横殴りの雨粒が吹き込み、書類に燃えついた炎をかき消した。オーベルシュタインはその雨の冷たさで何とか意識を保つことができた。つまった息を吐くと、腹のあたりから熱と痺れが全身に広がるのが分かった。聴力を取り戻した耳に、凶人の狂笑が廊下を遠ざかっていくのが聞こえた。

 

「軍務尚書!!」

意識を失っていたようである。風が窓をカタカタと叩いている。爆発の残滓を感じさせるものは何もない。オーベルシュタインは、先程まで執務していたのとは違う部屋に寝かされていた。体が焼けるように熱い。頭をおこして熱源を目視し、胸のあたりの服を軽くつかんだ。

――ああ、また穴が開いてしまった。

風が、通り抜けていく。もはや何をもってしても塞ぐことはかなうまい。なんとも醜い。身体にぽっかりと開いた穴は、義眼をはずした後の、あの異様な窪みにも似ていた。

彼は幼い頃から、常に身体を通り抜ける風の音を聞いていた。妻を失って以来、風は更に強さを増して、空虚な穴を悲鳴のような音をたてて吹き抜けた。一瞬たりともやむことがなかった。憎悪した王朝を滅ぼしても、人臣位階を極めても、風はやまなかった。

だが、それがもう遠い世界の出来事のように感じられる。

――私は、死ぬのだな。皇帝の崩御に先立って死ぬか。それもよかろう。光が消えれば影もまた消えるべきなのだ。

そう思うと、無益な言動を労する者たちが煩わしかった。

「ラーベナルトに伝えてくれ…」

軍医が彼の言葉を聞き取って頷くのが見えたと思ったら、視界が閉ざされた。

 

静かだった。風はやんでいるようだ。体を焼く痛みも、もう感じない。死は静寂とともにあるのか。

『こちらを見てください』

――私はもう目を開けていられそうにないのだ、フランツィスカ。

『あなたの視線の先には、わたくしの居場所がありますもの』

 

――フランツィスカ。

 

オーベルシュタインは自身の冷たく凍える心が、暖かい腕に包まれるのを感じた。彼には分かっている。目を開けてそこにあるのは、ワルキューレの姿でもヴァルハラの門でもない。愛しい人が、 小さなえくぼのある微笑を浮かべ、故郷の湖と同じ色の瞳に信頼の光をたたえてこちらを見つめているのだ、と。

新帝国暦3年7月26日の夜のことである。

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