Unter dem Siegel der Verschwiegenheit (3)

新帝国暦2年11月16日

皇帝はこの日ついに、宇宙艦隊司令長官ミッターマイヤー元帥に対し、ロイエンタール討伐の命を下すに至った。ミッターマイヤーは勅命を受けた。彼が打たねば皇帝が親友を打つことになる。それに耐えられなかったのだろう。オーベルシュタインはそのように思った。

これに先立つ10月、皇帝はロイエンタール謀反の噂を否定するためか、その招請に応える形でハイネセンに行幸しようとしたが、その中途、惑星ウルヴァシーで生じた事件により、しばらく行方が知れず、帝国中枢の人々の心胆を寒からしめている。

多くの人々にとって、新領土ノイエ・ラント総督オスカー・フォン・ロイエンタールの謀反は決して意外なものではなく、懸念が現実になったという感が強かった。というのは、この秋口から、新帝都・フェザーンではロイエンタール造反の噂が、そこかしこで囁かれていたからである。噂の出どころは今一つはっきりとしない。新領土の旧反徒であるとか、自治領主の地位を追われたルビンスキーであるとか、かねてよりロイエンタールと対立しているラングであるとか、世人は好きなことを言った。

そのうち最も支持を得た言説は、オーベルシュタインがロイエンタールを陥れようとしているのだ、というものである。根拠などない。陰謀あるところにオーベルシュタインあり、という、印象のみで語られているにすぎない。そのためか、このほどのロイエンタール討伐命令についても、彼に同情する者たちからは、はやくも、「軍務尚書をこそ糾弾すべし」との声が上がり始めている。

しかしながら、当のオーベルシュタインはそのような噂など全く意に介さぬかのように、日々の執務をこなしていた。討伐命令が下されたこの日も、居住不能地帯アネクメーネと化したヴェスターラントの再テラフォーミングに関する会議に参加している。軍の行動によって生じた結果は軍によって恢復されるべきだ、として、軍の技官らを中心にプロジェクトの詳細が詰められているところだ。実際にまた人が住めるようになるには、かなりの時間を要するであろうが、ヴェスターラントをリップシュタット戦役以前の、いやそれ以上に豊かで住みやすい惑星に作り変えることは、何より皇帝の意思でもあった。

ロイエンタール討伐の決定について、オーベルシュタインは普段の彼らしくなく、皇帝に意見具申することがなかった。そのことがまた、ロイエンタールを追い詰めた張本人と人々に見なされる一因ともなっている。だが逆に、彼が意見具申したならしたで、やはり誹謗を受けたろう。オーベルシュタインの人となりゆえである。

オーベルシュタインはロイエンタールの謀反の理由に、何ら共感するところがなかった。あの男はいったい何が満たされぬのか。ロイエンタールは皇帝とはまた違った危うさのある男として、オーベルシュタインの目には映った。おそらくロイエンタールは、皇帝と無言のうちに申し合わせて戦を起こしたのだ。干戈を交えることを決めたとき、両者の胸にはある種の喜びがあったはずだ。

ロイエンタールはともかく、戦を好む皇帝など、これからのローエングラム王朝には不要である。皇帝のあの性質だけは何としても抑えねばならぬ。なぜ私心のために無用の血を流すのか。いたずらに生命と財産を浪費する必要はないはずだ。矜持のためだなどと、愚かな感情論である。自らの片腕たる元帥を一人失うことで、皇帝に自制のくさびを打ち込みたい。

オーベルシュタインはそう思った。

 

皇帝がロイエンタールの元帥号を剥奪した翌日のことだ。官房長兼情報局長のフェルナーが、「憶測を含みますが」と前置きしつつ、マリーンドルフ伯爵令嬢が懐妊したようだ、と告げた。いわく、伯爵邸に産婦人科医が呼ばれた。フロイデン山荘との間でFTL回線を開いており、おそらくグリューネワルト大公妃殿下に相談したのであろう。そうした事象から導き出した結論である、ということだった。報告を受けた軍務尚書は、口元に持ってきたコーヒーを飲むことなく、そのままソーサーに返した。

「……懐妊、だと」

数瞬、フェルナーの顔をながめたオーベルシュタインは、それだけ言うとあらためてコーヒーを口にした。

――さすがの軍務尚書も二の句が継げぬか。

皇帝と伯爵令嬢との一夜にかかる噂が立たぬよう気を使ったというのに、懐妊となればそうはいくまい。フェルナーとしても、情報秘匿に苦心しただけに苦笑するしかないというところだ。何かというと、この冷徹な上官の心情を好意的に解釈しがちなフェルナーは、この男が若い二人を年長者の目で見守っていたのではないかと考えている。伯爵令嬢のこととて、皇妃にはふさわしくないと思っているだけで、彼女個人の才幹はむしろ好ましく思っているように見えた。

「どうなさいますか、閣下」

この期に及んでどうにかなるものでもあるまいが、と思いつつ、フェルナーは一応上官に確認した。いくらなんでも皇帝の子を殺せとは言わぬであろう。

「新領土が騒がしいゆえ、フェザーンにおいても要人警護を強化する」

それが軍務尚書の下した決定であった。

 

それから約一か月後、ロイエンタールは落命した。ミッターマイヤーはエルフリーデ・フォン・コールラウシュの生んだ親友の子を連れて、フェザーンに帰還した。

子供のためには、それが良かったのだろう、と、オーベルシュタインは思う。リヒテンラーデ侯と反逆者ロイエンタールの血筋となれば、旧王朝の貴族階級を糾合し、反ローエングラム王朝の象徴とするに十分な名目となる。廃帝エルウィン・ヨーゼフ二世の行方が知れぬ今、有力な後ろ盾でもあれば、その幼子が担ぎ出されぬとも限らない。しかしローエングラム王朝の元帥の子として育つなら、そうもいくまい。有能な戦略家オスカー・フォン・ロイエンタールには、そこまでの計算があって、ミッターマイヤーに息子を託したのかもしれなかった。

皇帝の子として生まれてくる子と、反逆者の子。オーベルシュタインは、二人の赤子が背負った運命を思った。

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